スペシャルティコーヒーの魅力とは?定義や基準、歴史から見るその全貌
2024.11.14こんにちは。Encore! Coffee Roasteryの杉山です。
今日は僕たちがメインに取り扱っているスペシャルティコーヒーについてのお話。
避けては通れないトピックだと思いつつも、まとめるのが大変で今になりました。
さて、スペシャルティコーヒーと聞いたら、おそらく疑問に浮かぶんじゃないでしょうか。
・スペシャルティって何が特別なの?
・本当においしいの?
・普通のコーヒーとどう違うの?
この辺の疑問を解き明かしながら話を進めていこうと思います。
スペシャルティコーヒーを正しく知ることは、コーヒーをこれからも楽しみ続けるためにとても重要なテーマだと思っています。
それではさらなるスペシャルティコーヒーの沼へレッツダイブ!
スペシャルティコーヒーとは?定義と特徴を解説
スペシャルティコーヒーって、ちょっと難しそうな響きですよね。Specialtyは日本語で専門とか特選といった意味なので、直訳すると分野的に選ばれたコーヒーって感じでしょうか。
スペシャルティコーヒーは、1970年代に生まれた高品質なコーヒーの概念です。
一言で言うと、すべてのコーヒーの中でも厳格な品質管理を経て、独特の風味や香りを持つ特別なコーヒーのこと。
そしてスペシャルティコーヒーの魅力は、その品質だけでなく、生産者から消費者までの繋がりにもあります。
- 生産者と消費者をつなぐ
- 品質評価の基準
- 通常コーヒーとの違い
- 浅煎りが多い理由
生産者と消費者をつなぐスペシャルティコーヒー
ちょっと長くなりそうなので、要点だけ先にざっくり書いておきますね。
スペシャルティコーヒーは、通常のコーヒーとは異なり、栽培から収穫、加工に至るまで細心の注意が払われています。
さらに、カップオブエクセレンス(COE)などの品評会や評価基準を通じて、その品質が評価されます。
これらの基準のほかにサステナビリティとトレーサビリティの重要性も強調されています。
ようするに農家さんの収入や産地の環境保全がきちんと管理されていて、コーヒー生産の持続可能性があることと(サステナビリティ)、いつどこでどのようにそのコーヒーが作られ、どのように運ばれてきたのかを追跡可能であること(トレーサビリティ)が重要ということですね。
これら条件が満たされることにより、生産者はより高い価格で販売することができ、僕たち消費者もよりおいしいコーヒーを楽しむことができます。
簡単に結論を言うと、スペシャルティコーヒーとは「生産と流通が厳格に管理され、原料の生豆と焙煎後のコーヒーにも規定以上のテイスティングの評価が付けられたコーヒー」、つまり「顔の見えるおいしいコーヒー」ということですね。
これにさらに定義を加えると、消費地で適切に焙煎と抽出がなされ、カップに淹れられたコーヒーを最終的に飲む人がおいしいと感じること。
消費地のロースターでありバリスタでもある僕たちはこれが一番大切だと感じています。
スペシャルティコーヒーでよく言われている「From seed to cup」(種子からカップまで)という概念ですね。
なのでスペシャルティコーヒーという概念には生産者やロースターはもとより、そのコーヒーをおいしく飲んでくれているあなたも含まれています。
ちょっと興味が湧いてきましたか?
スペシャルティコーヒーの基準と評価方法
スペシャルティコーヒーには、厳格な基準があります。主に、生豆の品質評価と焙煎後の味わい評価の2段階で判断されます。
焙煎後のコーヒーの評価では、SCA(スペシャルティコーヒー協会)やSCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)、COE(カップオブエクセレンス)など機関により多少フォームは異なりますが、テイスティング基準で100点満点中80点以上を獲得したものがスペシャルティコーヒーと呼ばれます。
評価項目には、クリーンカップ、フレーバー、甘味、後味などがあります。
評価はあくまでも加点方式で、欠点や雑味がないことが前提になります。
でも、評価項目だけじゃなく、最終的にはその豆が持つ個性や魅力が重要になります。
評価基準について詳しくは日本スペシャルティコーヒー協会のこちらのページをご覧くださいhttps://scaj.org/about/specialty-coffee(スペシャルティコーヒーの定義)
一般のコーヒーとの違いは何?
スペシャルティコーヒーと一般のコーヒー、何が違うんでしょう?
現在市場に流通しているコーヒーのおよそ9割はコモディティコーヒーと呼ばれています。スーパーや量販店で気軽に購入できるタイプのコーヒー豆ですね。
コモディティコーヒーとは、商品先物取引市場で取引される一般的なコーヒー豆のことを指します。価格はニューヨークとロンドンにあるコーヒー先物市場の相場に左右されます。
特定の農園や生産者で分けられることはほぼなく、エリアごとに混ぜられて出荷されます。
(逆に小規模農家の多いインドネシアのようにエリアごとに混ぜられていてもトレーサビリティがあり、評価が高ければスペシャルティと呼ばれるコーヒーもあります)
スペシャルティコーヒーとは異なり、特定の品質基準を満たす必要はなく、欠点豆の数や産地の標高などによって等級が決められます。
メリットとしては比較的安定してコーヒーを市場に供給できるという点があります。
スペシャルティコーヒーの市場流通量はまだまだコーヒー全体の10%程度なので、ほとんどの農家にとっての収入源としてもコモディティコーヒーの果たす役割は大きいです。
また決しておいしくないというわけではなく、良質なコモディティコーヒーであれば、それぞれの国ごとの個性的な風味を十分に楽しめます。
この仕組みのデメリットとして、エリアで多数の農園の豆が混ぜられてしまうため、ひとつの農園がどれだけおいしいコーヒーを作ろうと努力しても評価されることが難しいということ。
報酬も等級ごとに収穫量で割り振られるため、それぞれの農園の品質向上に対するインセンティブが失われてしまいます。
仮に設備投資して、土壌改良して、スペシャルティ級のコーヒーが収穫できたとしても、それが評価され、報酬が得られる機会がないということです。
なぜスペシャルティコーヒーは浅煎りが多いの?
スペシャルティコーヒーの焙煎は多くが浅煎りに仕上げられます。これには明確な理由があります。
コーヒーの焙煎ではそもそも深く焙煎すればするほど、香気成分が揮発していき、そのコーヒーの持つ個性が減っていきます。
代わりにカラメル化や炭化が進み、形成された苦味成分の割合が増していきます。
コーヒーの苦味とは?苦味を生む成分と苦味を抑える方法(Encore! Coffee Roastery)
もちろんビター感のある深煎りのコーヒーは、それはそれでおいしいのですが、繊細な風味特性を持つスペシャルティコーヒーの個性は深煎りにするとほとんど消えてしまいます。
SCAJが記載しているスペシャルティコーヒーの定義にも「際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと」とあります。
個性的な風味特性が残ったまま、良質な酸味と甘味が感じられることがスペシャルティコーヒーの大切なポイントなんですよね。
酸味といってもいわゆる古くなって劣化した嫌な酸味や、生焼けによる酸っぱい酸味ではなく、フルーツなどと同じ酸味物質由来の爽やかな酸味です。
苦手なコーヒーの酸味が好きになる!酸味の正体と良い酸味を持つコーヒーの選び方(Encore! Coffee Roastery)
農家や生産者の人たちも良質な酸味と甘味を重要視してコーヒーを作っているので、彼らへのリスペクトも込めて、素材の個性が最大限に活かされる浅煎りが主流になっています。
- 豆本来の味を引き出す
- 酸味や甘みを際立たせる
- 産地の特徴を感じやすい
スペシャルティコーヒーの歴史と発展
スペシャルティコーヒーの歴史は、コーヒーを愛してやまない先人たちの情熱から始まりました。
1970年代のアメリカで生まれたこの動きは、今や世界中に広がっています。
彼らのコーヒーの質を追求する姿勢は、生産者の意識も変えました。より良いコーヒーを作ることで、適正な対価を得られるようになったからです。
方や当時の日本ではまだまだ質の良い素材が回ってこなかったこともあり、先人たちは焙煎や抽出の工夫でいかにしてコーヒーをより美味しく仕上げられるかに情熱を注いできました。
こうして日本独自の深煎り文化や焙煎理論、職人技とも言える抽出方法が生まれました。
これらは決して寄り道ではなく、その後スペシャルティコーヒーの概念と邂逅することによって、さらなる進化を遂げます。
日本でも、ここ10年でスペシャルティコーヒーの認知が急速に広がりました。当店のお客様の中にも、開業当時よりコーヒーへの関心が高まっている方が増えてきた印象があります。
スペシャルティコーヒーは単なるトレンドではなく、コーヒーの楽しみ方を根本から変える革命だと思います。
- スペシャルティコーヒーが生まれる直前
- スペシャルティコーヒーの誕生
- COE(カップオブエクセレンス)の誕生
- コーヒーの新しい波
- 日本での広がり
- 世界的な市場成長
スペシャルティコーヒー誕生前夜
当然ですが、スペシャルティコーヒーという概念はある日突然生まれたわけでも、広告代理店がコーヒーを売るために生み出したキャッチコピーでもありません。
スペシャルティコーヒーの歴史は、コーヒー産業の変革と品質向上の物語です。
そもそもスペシャルティコーヒーの概念は1970年代のアメリカで生まれたものなので、その周辺の歴史をざっくり見ていきましょう。
その前にちょっとコーヒーブレイクにしましょう。
僕も淹れてきます。
年号や人物名は最小限に、重要なエピソードだけピックアップしますので、ご安心を。
さて、60年代に入ってからのアメリカではコーヒーを大量に買い付けしていて、コーヒーの大量消費・大量生産の時代に入りました。いわゆるコーヒーの第一の波(ファーストウェーブ)というものです。
この頃のコーヒーは安値で買い叩かれ、生産国での品質低下、提供されるコーヒーも質ではなく歩留まりをよくするために浅煎りにされたりと、「薄くてまずい」という当時のアメリカのコーヒーのイメージが定着していました。
日本の喫茶店で出されるお湯で薄めたアメリカンは当時のアメリカの薄いコーヒーが由来とも言われていますね。
そんな中、1966年にカルフォルニアで『Peet’s Coffee, Tea & Spices(ピーツコーヒー・ティー&スパイス)』という超伝説的なコーヒーショップが創業しました(今も健在です)。
ピーツコーヒーは当時主流だった薄いコーヒーとは対照的に、高品質の豆を深煎りしたコーヒーを提供し始め、これが新しいコーヒー文化の先駆けとなりました。
ちょっとTrivia
スターバックスの創業者ゴードン・バウカー (Gordon Bowker)氏、ジェリー・ボールドウィン (Jerry Baldwin)氏、ゼブ・シーグル (Zev Seigl)氏ら3人はなんと全員ピーツコーヒーの元スタッフで、多くのことを学び独立しています。
ちなみにエスプレッソ系ドリンクでスターバックスを世界的な大企業に押し上げたハワード・シュルツ氏は途中入社です。有名すぎて創業者と間違われていることが多いですよね。
この流れでピーツコーヒーのような高品質コーヒーを提供する自家焙煎店が出現し始め、新しいコーヒー文化を形成していきました。
これらの要因が重なり、カリフォルニアを起点として高品質コーヒーの流行が始まり、やがてスペシャルティコーヒーの概念誕生へと発展していきます。
スペシャルティコーヒーの誕生
スペシャルティコーヒーという言葉が初めて登場したのはピーツコーヒーが創業して8年後の1974年。
サンフランシスコのコーヒー会社の社長であったErna Knusten(エルナ・クヌッセン)さんが、業界誌Tea & Coffee Trade Journal(ティー&コーヒー・トレードジャーナル)でスペシャルティコーヒーという言葉を使用したのが始まりだと言われています。
エルナ・クヌッセンさんはスペシャルティコーヒーのゴッドマザーであり、コーヒー界で数々の偉業を成し遂げた方です。(詳しくはまた別の機会に)
彼女は、1978年にもフランスで開催されたコーヒー国際会議で
“Special geographic microclimates produce beans with unique flavor profiles.”
『特別な地理的環境が特別な風味特性のあるコーヒーを生み出す』
として、有名なスペシャルティコーヒーの概念を提唱しました。
その4年後、1982年にはアメリカスペシャルティコーヒー協会(SCAA)が以下を目的として設立されます。
・スペシャルティコーヒーの共通基準をつくりコーヒーの品質を向上させる。
・コーヒー関係業社を取りまとめ、取引量を確保する。
さらには、ヨーロッパスペシャルティコーヒー協会(SCAE)が1988年に、ブラジル・スペシャルティコーヒー協会(BSCA)が1991年に、コスタリカ・スペシャルティコーヒー協会(SCACR)が1993年に、それぞれ発足。
日本でも1999年に美味しいコーヒーの普及と啓蒙を目的に「日本スペシャリティーコーヒー協会」が発足。2003年に現団体である「日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)」として生まれ変わりました。
ちょっとTrivia
Specialty / スペシャルティとSpeciality / スペシャリティの違いは、前者がアメリカ英語で後者がイギリス英語です。意味はどちらも同じなんですが、実際に聞くと発音もアクセントの位置も全然違います。
日本の協会がなぜ2003年まではイギリス英語のSpecialityだったのかは調べてみましたが、分かりませんでした。
その後、アメリカのSCAAとヨーロッパのSCAEは2017年1月1日に統合し、スペシャルティコーヒー協会 / Specialty Coffee Association(SCA)となりました。
アジア最大のコーヒー展示会であるSCAJ展示会には毎年多くのコーヒー関係者や一般のコーヒーラバーたちが集まり、2024年開催時には過去最高の7万5217人が来場しています。やばい数ですね。
1974年に初めて言葉として登場したスペシャルティコーヒーの概念は半世紀の時を経て、今大きな時代のうねりとなりつつあります。
COE(カップオブエクセレンス)の誕生
スペシャルティコーヒーを語る上で絶対に避けられない名前があります。
Terroir Coffee(今はGeorge Howell Coffeeに屋号変更)の創業者であり、カップオブエクセレンス(Cup of Excellence / 以後COE)の創始者の1人でもあるジョージ・ハウエル氏です。
彼は1999年に従来の欠点による品質評価ではなく、欠点がないことを前提としたポジティブな要素の加点方式の品質評価を提唱しました。
これを元に今も改良を重ねながらCOEやSCAJでも使われているカッピングフォームの大元が発明されました。
それを受けブラジルで初のコーヒーのインターネットオークションであるカップオブエクセレンス(COE)のプロジェクトが始まり、10の農園が入賞します。優勝した農園は破格の価格で落札され一躍有名になったそうです。
ジョージ・ハウエル氏はおおげさではなく今までのコーヒーの品質評価の概念をひっくり返し、世界中のコーヒー農家とその栽培環境に影響を与え、コーヒーの品質向上と地位向上にもっとも貢献した人物の1人です。
ちなみに彼がコーヒー業界に入ったのは、ピーツコーヒーの一号店で飲んだコーヒーに衝撃を受けたことがきっかけだったそうで、その後最初の彼の店舗である「Coffee Connection」を開業します。
いかにピーツコーヒーが伝説的なお店であったか痛感しますね。。
(ジョージ・ハウエル氏の「Coffee Connection」も実は数多くの伝説を残しているエピソードの宝庫なお店なんですが、これもまたの機会に!)
ブラジルでのプロジェクトの大成功を受け、いまやCOEは世界中の多くの生産国で開催されるようになりました。
コーヒーの第三の波とは
コーヒーの歴史は、三つの波に分けて語られることがあります。第三の波こそが、スペシャルティコーヒーの時代と言われています。
第一の波(ファーストウェーブ)は、1960年代から1970年代、コーヒーが一般家庭に普及した時代。大量生産・大量消費の安価な缶コーヒーやインスタントコーヒーが主流でした。
第二の波(セカンドウェーブ)は、1980年代から90年代、スターバックスに代表されるカフェチェーンの台頭。前出したピーツコーヒーの系譜から繋がる高品質な深煎りのコーヒー豆を使用したエスプレッソベースのラテ系の飲み物が人気を集めました。
そして2000年代に入り、第三の波(サードウェーブ)が起こります。これがスペシャルティコーヒーの時代です。
アメリカやノルウェーを中心にマイクロロースターと呼ばれる小規模な自家焙煎コーヒーショップや企業が数多く台頭し、浅煎りにローストされた新鮮で高品質なコーヒー豆の個性や生産地の特徴を楽しむ文化が広がりました。
日本におけるスペシャルティコーヒーの広まり
日本でも少し遅れてスペシャルティコーヒーの波がやってきました。波というよりは静かな革命みたいなもので、最初は一部のコーヒーマニアの間で広まっていきました。
2000年代中頃から軽井沢の丸山珈琲や京都のUnirなどがスペシャルティコーヒーの旗手として台頭します。
2010年頃から、東京を中心にスペシャルティコーヒーのマイクロロースターやチェーンではないインディペンデントなコーヒーショップが増え始めます。そこから徐々に、地方都市にもその波が広がっていった感じです。
僕らEncore! Coffee Roasteryもその流れの中、2015年に大阪で開業しました。
この頃にはすでに雑誌などでもスペシャルティコーヒーの特集が組まれ始めていましたね。
もともと日本人の繊細な味覚と、品質にこだわる文化はスペシャルティコーヒーと相性がとても良いと思っています。
現在はお店でコーヒーを飲むだけでなく、自宅で豆を挽いて淹れる人も増えています。まさに、生活に根付いたコーヒーカルチャーの深化が起きている印象です。
ただ、日本のスペシャルティコーヒーの市場規模は国内全体のコーヒー市場規模のまだ1割程度です。
まだまだ僕たちはスペシャルティコーヒーの魅力とコーヒーの未来を伝え続ける必要があります。
世界的なトレンドと市場の成長
スペシャルティコーヒーの人気は、世界規模で拡大しています。北米やヨーロッパを中心に、2020年代に入ってからはアジア圏でも急成長中しています。
この成長の背景には、若い世代を中心としたこだわりのある消費傾向があります。求められているのは「ただ飲む」のではなく、「体験する」「楽しむ」コーヒーです。
ただの普通のコーヒー以上のもの。さまざまなテロワールや精製方法によって生み出される風味特性。それを最大限に引き出す焙煎と抽出方法。それらが隠すことなくすべて透明に消費者に開示されているのも現在のコーヒーシーンの特徴です。
コーヒーの世界に没入できるような深い体験は、単なる気分転換の飲み物としての枠を超えたものだと思います。
一躍有名になったブルーボトルコーヒーも、もともとは日本の喫茶文化に感銘を受けて一杯一杯を丁寧に淹れるハンドドリップ(プアオーバー)の文化をアメリカで広めました。
環境や社会に配慮した消費も、市場拡大の要因の一つだと思います。フェアトレードやサステイナブルなコーヒーへの関心が高まっています。
当店でも、コーヒー豆の生産地の情報や精製方法を伝えると、多くのお客様が興味を持ってくれます。コーヒーを通じて、世界とつながる感覚を持っていただけるのはとても嬉しいです。
スペシャルティコーヒーの魅力5つ
スペシャルティコーヒーの魅力は、まるで見る角度によって違う輝きを放つ宝石のように多面的です。
僕が最初に体験したスペシャルティコーヒーは大阪のあるコーヒーショップのグァテマラ エルインヘルト パカマラという銘柄でした。
香りから味わいまで、今まで飲んできたコーヒーとはまったく別物で、感動した覚えがあります。
最近ではノルウェーのTim Wendelboeのコロンビア。これには度肝を抜かれましたね。。
スペシャルティコーヒーの世界はまだまだ途方もないと、飲みながら思いました。
ノルディックローストとは?北欧の浅煎りコーヒー文化と背景(Encore! Coffee Roastery)
このスペシャルティコーヒーの感動を追体験してもらえるように少しずつ魅力を伝えていくことが僕らのやりがいの一つです。
では、その魅力を5つにまとめてみましょう。きっとあなたも、スペシャルティコーヒーの新しい魅力を見つけられるはず!
- 豊かな風味と個性的な味わい
- 生産者とのつながり
- サステナブルな農業
- 多彩な抽出方法
- コーヒー文化への深い学び
豊かな風味と個性的な味わい
なんといってもスペシャルティコーヒーの最大の魅力は、その豊かな風味と個性的な味わい。
見た目は同じように見える豆なのに、そこから作られる琥珀色の液体の香りと味わいの多様性は、まるで広大な宇宙を無作為に切り取ったかのように終わりがありません。
そしてそのコーヒーの宇宙は今もなお急激な速度で広がり続けています。
ロマンチック!
一杯のコーヒーの中には、フルーティーな酸味、チョコレートのような甘み、ナッツのようなコク。時には、花の香りさえ感じられます。
産地や品種、精製方法、焙煎のアプローチによって、全く異なる味わいが生まれます。もちろん抽出方法も。
ペーパーフィルターで淹れたコーヒーと、エスプレッソで淹れたコーヒーが、実は同じ瓶から取り出した同じコーヒー豆だなんて、コーヒーに携わる人間かよほどのコーヒーラバーじゃないと分かりません。
でも正直、そんな難しいことは抜きにしてその日の気分で気になる豆を選んだり、バリスタにおすすめのコーヒーを淹れてもらうだけでも、スペシャルティコーヒーの魅力は十分すぎるほど楽しめます。
まずは理屈抜きで一杯のコーヒーを純粋に五感で楽しむことが一番です。
生産者との繋がりと透明性
前半でお話ししたようにスペシャルティコーヒーは生産者の顔が見えるコーヒーです。
昔は、コーヒーの生産者がどんな人なのか、全く想像もつきませんでした。今でもコモディティコーヒーの場合、消費者が分かるのは産地と等級、そして大まかな精製方法ぐらいです。
でも今は、名前はもちろん、土壌や水、精製方法もどの段階でどのくらい発酵させているか、そしてその土地の生態系などどんな環境で栽培されているのか、農園の様子まで知ることができます。
情報は多ければ良いってものではないので、その情報をどこまで伝えるかは売り手次第ですが、この透明性が、コーヒーの質を高めていることは間違いないと思います。
当店でも、興味を持ってくれたお客様には豆の説明をする時に生産地や生産者の話をしたりします。
コーヒーを飲むことが、遠い国の誰かとつながることになる。そんな素敵な体験ができるのも、スペシャルティコーヒーの魅力の一つです。
持続可能な農業への貢献
多くのスペシャルティコーヒーの農園では、環境に配慮した栽培方法を採用しています。農薬をあまり使わない工夫がされていたり、生態系や森林を守りながら栽培したり。
いわゆるサステイナブル(持続可能)な農業。
こういった取り組みは、土地の環境や生物の多様性を守ることにもつながっています。
またコーヒー農業のサステナビリティというのは環境だけではありません。
農業に携わる人たちの暮らしを支えたり、農家さんの安定的な収入を確保するための指導や支援が行われたり、場合によっては子どもたちの学校を作るなど重要なインフラを整えたりもします。
当店の取り扱っているコーヒーの例で言うと、
ケニアのGachatha Coffee Factory(ガチャタコーヒーファクトリー)は、
・使用されたすべての水をソークピットで処理し、飲料水の供給源である地元の水路に汚染物質が流れないようにする。
・地域に残る在来種の木を保護することで鳥たちの生活も維持するなど、環境と生態系保護にも力を尽くしている。
・2000名弱が在籍するメンバーに対し、農業支援や子どもたちへの教育支援を行っている。
このように高い品質だけにとどまらない人も環境もサステイナブルな農業に取り組まれています。
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販売中の商品KENYA NYERI GACHATHA COFFEE FACTORY AA TOP - 200g元の価格は ¥2,180 でした。¥1,526現在の価格は ¥1,526 です。 (税込)
何を伝えるかの取捨選択で、あまりうちではそういった情報を前面には出せていないんですが、どの生産地も持続可能な農業に対して意識高く取り組まれていることは確かです。
新しい抽出方法との相性の良さ
スペシャルティコーヒーはもともとの素材のポテンシャルが高いので、多種多様な抽出方法で、おいしさを引き出すことができます。
ドリップ、エスプレッソ、エアロプレス、サイフォン…。それぞれの方法で、全く違う味わいを楽しめます。
その一つ一つが世界大会が開かれるほどの奥の深さ。
少し前にブームになったコールドブリューやニトロコーヒーなど、新しい抽出方法も登場しています。
10年ほど前に話題になったスチームパンクという、いかついコーヒーマシンもありました。
これだけ抽出方法が多岐にわたる飲み物も珍しいですよね。
抽出方法によってただ単に薄くなる濃くなるではなく、風味や口当たりも大きく変わります。理由はやはり、コーヒーの持つ成分の多さと複雑性だと思います。
1000種類以上とも言われているコーヒーの香気成分や油分が、多彩な方法によってそれぞれ複雑に組み合わさって最終的な風味と口当たりを作り出します。
当店ではペーパーフィルターを使ったハンドドリップとエスプレッソの2種類の抽出方法でコーヒーを提供していますが、どちらも永遠に最適解には辿りつかない底なし沼です。
皆さんも沼にはまりましょう。ズブズブ…
おいしいコーヒーの淹れ方完全ガイド!ハンドドリップの基本レシピと知識(Encore! Coffee Roastery)
エスプレッソってなに?普通のドリップコーヒーとの文化と抽出の違い(Encore! Coffee Roastery)
コーヒー文化の深い学びと楽しみ
スペシャルティコーヒーの世界は、例えるなら沼だらけの深いジャングル。入れば入るほど、新しい発見があります。現に失われたと思われていた品種を探し出し、世に広めたコーヒーハンターと呼ばれるすごい方もいます。
豆の種類、産地、焙煎方法、抽出方法、そして歴史や文化。コーヒーは学べば学ぶほど、その奥深さに魅了されていきます。
知識がない状態でももちろん楽しむことはできますが、知るとより深みが増します。
クラシック音楽のように、聴くだけでなく、その曲が作られた背景や作曲家のこと、演奏の違いなどを知るとより深く楽しめるようになるのと似てます。
知識が増えれば増えるほど、味わいの違いがわかるようになる。そして自分好みの味わいに抽出をコントロールできるようになったりもする。それがまた楽しいんです。
当店でも、コーヒー教室を開いていますが、実践以外にもコーヒーの文化や背景の話を結構します。
趣味や嗜好品って、この知識の部分が広がれば広がるほど楽しみが豊かになるんですよね。
コーヒーを通じて、世界の文化や歴史を学べるのも魅力の一つ。一杯のコーヒーの感動が、あなたの世界をぐっと広げてくれるはずです。
スペシャルティコーヒーの未来展望と課題
スペシャルティコーヒーの未来は、一見バラ色ですが、いくつかのトゲもあります。
まずは気候変動という大きな壁。
これは産地の環境改善や品種改良などのテクノロジーの進化で乗り越えられる可能性があります。それに、僕たち消費者の意識も着実に変わってきています。
これからのスペシャルティコーヒーは、単においしいだけじゃなく、より環境や社会にも配慮したものになっていくことは間違いないです。
- 気候変動への対応
- 技術革新の可能性
- 消費者教育の重要性
気候変動がもたらす影響と対策
気候変動は、スペシャルティコーヒーにとっても大きな脅威です。
温暖化の影響で、コーヒーの栽培に適した土地が減少しています。さび病など病害虫も増えて、品質の良い豆を作るのが難しくなってきています。
近い将来、コーヒー生産に適した地域は最大で50%にまで縮小し、コーヒーの供給が難しくなることが危惧されています。いわゆる「2050年問題」というものです。
生産地は現在、耐性のある新しい品種の開発や、栽培方法の改良、環境保護など、様々な対策を講じています。
例えば、シェードグロウン(Shade Grown)という方法があります。これは、他の木の日陰でコーヒーを育てる方法。
とても手間がかかる方法ですが、通常より少ない水で栽培が可能で、CO2吸収量増加によって温度上昇を抑え、生物多様性も守れる方法として注目されています。
また、より自然に近いものとしてフォレストコーヒーという方法をとっている生産地もあります。これも森林内という自然に近い状態での栽培により、生態系を保護し、CO2吸収量を増加させます。
新しく「土壌の健康」、「動物福祉」、「社会的公平性」を満たす再生可能な「リジェネラティブ・オーガニック」という方法も広がりつつあります。
当店のコーヒーだと、インドネシア ポルン アルフィナーがシェードグロウンを、エチオピア デンカラムがフォレストコーヒーを、それぞれ取り入れています。
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販売中の商品ETHIOPIA GALITEBE COFFEE DENKALEM / エチオピア ガルテンビコーヒー デンカラム - 200g元の価格は ¥2,020 でした。¥1,414現在の価格は ¥1,414 です。 (税込)
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販売中の商品インドネシア マンデリン ポルン アルフィナー (200g)元の価格は ¥1,920 でした。¥1,344現在の価格は ¥1,344 です。 (税込)
テクノロジーの進化と品質向上の可能性
日々急速に進化するテクノロジーは、スペシャルティコーヒーの世界にも大きな変革をもたらしています。
面白いと思ったのは、ブロックチェーン技術を使って豆の生産から流通までの過程を追跡できるアプリシステム。
改ざんが難しく情報の透明性がさらに高まる点や、消費者がお気に入りのコーヒーの農家さんに直接支援できる仕組みもあったり、これが広がればより生産地の環境改善が進んだり、生産者のインセンティブが高まるんじゃないかなと期待しています。
寄付や支援って、やろうと思っても窓口がどこなのかとか、海外への送金リスク(手数料、送金先の間違い)など、なかなかハードルが高いんですが、アプリでダイレクトに、しかも気軽にできるようになったらすごく良いですよね。
栽培の面では、ドローンやセンサーを使った精密農業が注目されています。空中からコーヒーの木の健康状態をセンサーで把握したり、水やりや肥料の量を最適化できるので、環境への負荷も減らせます。
こういった技術の進化は、環境を保護しつつ、スペシャルティコーヒーの品質をさらに高めていく可能性を秘めています。
普及活動と新たな市場開拓の重要性
スペシャルティコーヒーの未来が明るいかどうかは実質コーヒーを飲むエンドユーザーに委ねられています。
そう、消費者の理解と支持が結局のところ無ければいけない。
スペシャルティコーヒーの言葉そのものは広がりつつありますが、中身やその魅力までとなるとまだまだ認知されているとは言えません。
「高いだけでしょ?」なんて思っている人も多いのかも。分からないですが。。
だからこそ、お客様へ伝え続けることが重要だと思っています。コーヒーの味わいの違い、生産過程、環境への影響。こういったことを知ってもらえれば、きっと価値を感じてくれるはずと信じて、今このコラムを書いています。
お店の方では、あまり情報過多にならないよう、コーヒー豆の案内ポップには必要最低限の情報を書き、興味のある方には直接お話ししたりします。
新しい市場の開拓も僕らの課題。
今までコーヒーにあまり興味がなかった層やコーヒーが苦手だった層にこそスペシャルティコーヒーの魅力はより強く響くんじゃないかと実感しています。
「こんな甘くてフルーティなコーヒーがあるんだ」とか思ってもらえたら9割は伝わったようなものです。
コーヒーカクテルやコーヒーを使ったデザートなど、新しい楽しみ方を提案するのも一つの方法。例えば今うちではエチオピア デンカラムとフルーツを使った華やかなコーヒーゼリーを開発中です。かなり良い感じになる予定です!
普及活動には発信し続けることが重要で、SNSでもいろんな方がコーヒーの楽しみや知識を発信してくれていますが、どうしても声の大きな強い意見や他者との優劣を比較するような投稿も目立ちがちです。
でも本質は僕らも含めて、コーヒーを飲んで楽しむ個人個人のスペシャルティコーヒーへの理解と選択であるべきだと思っています。
美味しいコーヒーの未来を、一緒に作っていきましょう!
スペシャルティコーヒーの世界へようこそ
スペシャルティコーヒーの定義、歴史、魅力、そして未来の展望について紹介しました。
最後にこのコラムのエッセンスを一杯のコーヒーのように抽出します!
・コーヒー生産の持続可能性があることと(サステナビリティ)
・いつどこでどのようにそのコーヒーが作られ、どのように運ばれてきたのかを追跡可能であること(トレーサビリティ)
・評価基準を通じて、その品質が客観的にきちんと評価されていること
・消費地で適切に焙煎と抽出がなされ、カップに淹れられたコーヒーを最終的に飲む人がおいしいと感じること
これらのポイントを意識するだけで、あなたのコーヒー体験はぐっと深まるはずです。
スペシャルティコーヒーは単なる飲み物以上の存在です。それは、文化であり、物語であり、環境や未来を考えるきっかけであり、そしてどこまでいっていも飲む人を楽しませたり、人と人を繋げる嗜好品でもあります。
たかが嗜好品、されど嗜好品。
最後に、これはうちだけかもしれませんが、あんまりスペシャルティコーヒーを特別にしたくないという想いもあります。
非日常的なすごいコーヒーよりも日常のおいしいコーヒー。
そこにもっともっと浸透していけたら、いやさせていかないといけないと思いながら焙煎しています。
難しいことは抜きにしても、コーヒーの知識が何一つない状態でも、剥き出しの感動を五感で体感できるのがスペシャルティコーヒーの魅力の入り口だと思います。
スペシャルティコーヒーって結局なに?ってなっていた方もこれを機会にぜひ興味を持って楽しんでもらえたら嬉しいです!