コーヒーの知識

コーヒーが蒸らしで膨らまない本当の理由と改善ポイント

2024.08.01

こんにちは!Encore! Coffee Roasteryの代表ロースター杉山です。

皆様、コーヒーのハンドドリップと聞いたらどんな光景が思い浮かびますか?

ケトルから注がれる細いお湯の線と立ち上る湯気、そしてお湯をしっかり受け止めてパンケーキのようにモコモコに膨らんだコーヒーの粉。

イメージするだけでコーヒーが飲みたくなってきますよね。。

でも実際、ハンドドリップでコーヒーを淹れているときに、「あれ?コーヒーの粉が膨らまない?」と感じたことはありませんか?

  • なぜコーヒーが膨らまないのか。
  • どうすればコーヒーを膨らませられるのか。
  • そもそもコーヒーは膨らんだ方がおいしいのか。

コーヒーショップをしていると意外とたくさん聞くこの疑問。

結論から言うと、コーヒーが膨らむ原因はコーヒー豆内部の炭酸ガス(二酸化炭素)です。
コーヒーは深煎りほど炭酸ガスが豊富でぷっくりと膨らみますが、浅煎りは炭酸ガスが少なくほとんど膨らみません。
よく言われる「コーヒーが膨らむ=新鮮」と「コーヒーが膨らまない=おいしくない」は半分本当で半分間違っています。

この記事では、コーヒーが膨らまない原因とその改善ポイントを詳しく解説します。

コーヒーが膨らまない理由とは?

コーヒー豆が膨らまない理由にはいくつかの原因が考えられます。

主な原因として、

  • コーヒー豆の鮮度が低いこと
  • 焙煎度合いが浅いこと
  • 挽きたてでないこと
  • お湯の温度が適切でないこと

が挙げられます。

これらの要因が重なると、コーヒー豆が十分に膨らみません。コーヒーの風味に影響のない要因もあれば、悪影響を与える要因もあります。

浅煎りのコーヒーはこのように膨らまないが、これは風味に問題なし

風味に悪い影響のあるコーヒー豆が膨らまない原因

上に挙げたコーヒー豆が膨らまない原因のうち、「コーヒー豆の鮮度が低いこと」と「挽きたてでないこと」はコーヒーの風味に悪影響を与える場合があります。

まず、コーヒー豆の鮮度が低い場合、例えば焙煎されてから何ヶ月も経っているようなコーヒー豆だと、焙煎後の炭酸ガスがほとんど抜けてしまい、膨らみません。

さらに、粉に挽いて時間が経ったコーヒー豆は急速に炭酸ガスが抜けてしまいます。最後に、ドリップ時のお湯の温度が低すぎると、コーヒー豆が十分に膨らまないことがあります。

このようにコーヒー豆の劣化によって膨らまない場合、そのコーヒーの風味は落ちている可能性があります。

風味に悪い影響のないコーヒー豆が膨らまない原因

コーヒー豆が膨らまない原因のうち、「焙煎度合いが浅いこと」は風味に悪い影響を与えません。
焙煎度合いが浅ければ浅いほど焙煎時に生成される炭酸ガスの量は少なく、膨らみにくいです。

コーヒーの粉がお湯に触れると、粉内部の炭酸ガスが水中に押し出されるように細かい泡とともに放出され膨らみます。
豆内部の炭酸ガスが少ないということは、この放出される泡の量も少ないということです。

なので、あなたが淹れているコーヒーがもし浅煎りだった場合は、コーヒー豆が膨らまなくても、それだけで風味が劣るということはありません。

コーヒーを膨らませるために必要な条件

とはいっても、あのぷっくりと膨らんだコーヒードーム。ドリップをしていたら一度は自分の手で再現してみたくなりますよね。

なので、もしコーヒーをしっかり膨らませてみたい場合には、以下の条件で淹れてみてください。

鮮度の高いコーヒー豆を使用すること:焙煎後1~2週間以内の豆を使用することで、ガスが十分に含まれた豆を使うことができます。
深い焙煎度合いのコーヒー豆を選ぶこと:深煎りの豆はガスの発生が多く、膨らみやすいです。
挽きたてのコーヒー豆を使用すること:挽きたての新鮮な豆を使うことで、膨らみが良くなります。
適切なお湯の温度を使用すること:90℃以上のお湯を使用することで、豆が膨らみやすくなります。

焙煎から3日後の深めの焙煎のコーヒー。よく膨らむ。

「膨らむ=おいしい」とは限らない

仮に膨らませることだけを目的にするならば、焙煎直後の深煎りのコーヒー豆を淹れる直前に細挽きにし、沸騰直後のお湯でドリップしてみてください。
立ち上る湯気とともに、みるみるうちにボコボコとハンバーグのように膨らみます。

写真や動画に収めることが目的であれば、まさにシズル感のあるフォトジェニックな光景ではあります。

ただ、そのコーヒーがおいしいかどうかは別問題で、焙煎直後のコーヒー豆に含まれる炭酸ガスはフルーティな香味よりも焙煎由来のスモーキーな香りの方が優位で、そのコーヒー豆が持つ個性が安定して出てくれません。

湯温も高ければ高いほど炭酸ガスの放出量は多くなるので、大きく膨らむのですが、スモーキーさが前面に出やすいことと、比較的溶け出しやすい酸味成分が必要以上に出てしまうので、いわゆる尖った味わいや金属っぽいフレーバー、イガイガした風味になる場合があります。

あまり機会はないかもしれないですが、もし焙煎直後のコーヒーをすぐ飲んでみたい場合は、あまり細かくせずグラニュー糖ぐらいの挽き目にし、粉を10分ほど落ち着かせてから85℃ぐらいのやや低めのお湯でゆっくりドリップしてください。

基本的にコーヒー豆は焙煎後もしばらくの間は香気成分が定まっておらず、炭酸ガスには焙煎由来のスモーキーさが残っています。これが焙煎直後のコーヒー豆の抽出が安定しない理由です。

おいしくないというわけではないですし、焙煎直後の豆にはその時しか味わえない特有の風味が楽しめるんですが、やはりそのコーヒー豆の持つ風味のポテンシャルは十分には出てきません。

焙煎度合いにもよりますが、焙煎から1〜3日経つと香気成分が定まり、スモーキーさが徐々に消えていきます。
この1〜3日経過した辺りから浅煎りであれば1〜2ヶ月ほど、深煎りであれば2〜3週間ほどが飲み頃となります。

コーヒー豆の鮮度と膨らみの関係

コーヒー豆の鮮度は膨らみに大きく影響します。焙煎後のコーヒー豆は内部に香気成分を含んだ二酸化炭素(炭酸ガス)を多く含んでいますが、時間が経つにつれてこのガスが抜けていきます。その結果、コーヒー豆は膨らみにくくなります。鮮度の高い豆を使うことで、ガスが豊富に含まれ、抽出時にしっかりと膨らむコーヒーを楽しむことができます。

コーヒーの焙煎が膨らみに及ぼす影響

コーヒーの焙煎は豆の膨らみに直接関わります。焙煎度合いによって炭酸ガスの発生量が変わり、膨らみやすさが異なります。

一般的に、深煎りにすればするほど炭酸ガスの発生が多く、膨らみやすいです。一方、浅煎りの豆はガスの発生が少なく、膨らみにくい傾向があります。

また、焙煎直後の豆は炭酸ガスが多く含まれていますが、時間が経つとともにガスは抜けてしまうため、例えば焙煎から数ヶ月経ったようなコーヒー豆だと深煎りであっても膨らみません。

挽きたてのコーヒー豆の重要性

挽きたてのコーヒー豆を使用することも、風味の観点ではもちろんのこと、膨らみを良くするためにも重要です。コーヒー豆を挽くと表面積が一気に増え、膨らみの要因となる炭酸ガスの抜けていく速度も大幅に早くなります。

また、炭酸ガスの減少と同時に酸素との接触が増えるため、コーヒーの油分の酸化が進みやすくなります。いわゆる嫌な苦味や酸っぱい酸味の原因となる酸性化由来の劣化です。

なのでコーヒー豆は挽いてからすぐに使用することが理想的です。ご家庭でコーヒーを淹れる際には、淹れるたびに挽くことがベストですが、手間であれば数日分挽いておいて密閉容器で保存するか、1週間分程度であれば豆を購入したコーヒーショップで挽いてもらっても大丈夫です。

いずれにせよ、粉に挽いたコーヒーは急速に劣化することを念頭に、早めに使い切ることがベストです。

お湯の温度と蒸らしの膨らみ

さて、いままでコーヒーが膨らまない理由のうち、

コーヒー豆の鮮度が低いこと
焙煎度合いが浅いこと
挽きたてでないこと

この3つは紹介してきました。

残りの「お湯の温度が適切でないこと」についてをここで解説します。

そもそもなぜコーヒーは膨らませなくてはいけないのか?
まずはこの点について書きます。

重要なのは「膨らませること」よりも「蒸らすこと」

コーヒーを膨らませる目的はコーヒー豆の内部に含まれている香気成分を十分に引き出すためのお湯の通り道を作ることです。

これが一般的に「蒸らし」と呼ばれる工程です。
英語では「Blooming」とも呼ばれ、開花するという意味合いです。

蒸らしという日本語だけではその重要性が分かりづらいですが、「蒸らしで香気成分が花開く(Bloomする)」とイメージすれば、蒸らしの役割が見えてきます。

ここで大切なのはコーヒーを「膨らませること」よりも「蒸らすこと」です。
蒸らしの工程で膨らまなくてもコーヒーの粉全体にお湯がきちんと行き渡り、成分の抽出を妨げる炭酸ガスがきちんと抜けてくれれば問題ありません。

お湯を注いだ後のコーヒーの粉の表面を観察してみてください。
粉全体にお湯が行き渡り、細かい泡が無数に出て、コーヒーの粉よりも薄い色合いになっていれば「蒸らし」はできています。

コーヒー豆のガスを抜くためには、お湯の温度も重要です。適切な温度のお湯を使うことで、豆のガスがしっかりと放出されます。一般的に、お湯の温度が低すぎると豆が膨らみにくくなり風味が出ず、逆に高すぎると風味が損なわれる可能性があります。

最適なお湯の温度とは?

コーヒーを蒸らしたり、膨らませるために最適なお湯の温度は下は85℃から上は高くても95℃ぐらいまでです。この範囲内の温度であれば、豆のガスが適切に放出され、膨らみやすくなります。

お湯の温度が低すぎると豆が十分に膨らまず、つまり炭酸ガスが抜けず、風味も薄くなってしまいます。

薄く抽出が始まってしまうと、途中でリカバリーすることは難しいです。薄いコーヒーを濃くすることはできませんので、慣れないうちは90℃以上の高めの温度でドリップすることをおすすめします。

一方、沸騰直後のお湯を使うなど、温度が高すぎると豆が急激に膨らみすぎて、つまりガスが抜ける速度が早すぎて、酸味や苦味が強くなることがあります。

そうなると、ドリップの速度コントロールが非常に難しく、過抽出(強い苦味やえぐみなど、成分が必要以上に出る)になってしまう可能性があります。

最適な温度を保つためには、温度計を使うか、電気ケトルの温度設定を利用すると便利ですが、ない場合は一度カップを湯煎してもう一度ケトルに戻せば、だいたい適切な温度帯になります。

ハンドドリップのやり方を見直す

ハンドドリップでコーヒー豆が膨らまない原因が抽出方法にある場合、以下のポイントを見直すことで、改善される可能性があります。

蒸らしの時間を確保する:コーヒー豆にお湯を注いでから30秒程度蒸らすことで、豆の内部のガスが放出されやすくなります。
注ぐお湯の量と速度を調整する:一度に大量のお湯を注がず、少量ずつゆっくりと注ぐことで均等にガスが抜け、安定した味わいになります。
お湯の温度を適切に保つ:前述したように、85〜95℃のお湯を使用することで最適な蒸らしの効果が得られます。
均等にお湯を注ぐ:中心から外側に向かって均等にお湯を注ぐことで、豆全体が均一に蒸らされます。

劣化で膨らまないコーヒーを見分けるコツ

ここまで読んでいただいた方は、もしかすると疑問に感じているかもしれません。

「時間が経って劣化したコーヒーは膨らまない。これは問題あり」
「でも浅煎りのコーヒーも膨らまない。これは問題なし」
「じゃあ、浅煎りのコーヒーと劣化したコーヒー、区別つかないのでは?」

区別、つきます!

例えば、いただきもののコーヒー豆とかだと、焙煎日が記載されていないこともあって、まだ飲めるのか、もう古くて飲まない方がいいのか、判断に困るような場合。

もちろん、飲んでみたら分かるとか、豆の香りをかいだら分かるとか。そういう意地悪な話ではなく、ドリップする際の見た目ですぐに判断できます。

まず劣化してしまったコーヒーは、蒸らしの際にコーヒーの粉がお湯を保持できず、注いだ瞬間にボコっと陥没します。
ドリップの最後の方でも、炭酸ガスが抜けきった細かいコーヒーの粉がペーパーフィルターに貼り付いて目詰まりするので、なかなか落ちきらないことがあります。

浅煎りでほとんど膨らまないコーヒー豆でも多少は膨らみます。
そして、新鮮なコーヒーの場合、お湯を注いでいると、炭酸ガスの無数の細かい泡が発生し粉の表面が白っぽくなります。

左:膨らまなくても、新鮮であればお湯を注いでいると無数の炭酸ガスの泡で表面が白っぽくなる。

・蒸らしの際にコーヒーがお湯を保持してくれるか。
・炭酸ガスの細かい泡が発生しているか。

この2点を確認してもらえれば、劣化で膨らまないのか、浅煎りだから膨らまないのかを判別できます。

コーヒーの泡について科学的により詳しく知りたい方は毎度お馴染み「百珈苑」のこちらのページを参照してみてください。

コーヒーの泡(百珈苑)

まとめ

この記事では、コーヒーが膨らまない原因とその改善ポイントについて詳しく解説しました。適切な方法でコーヒー豆を保存し、鮮度や焙煎度合い、お湯の温度に気を付けることで、膨らみやすいおいしいコーヒーを淹れることができます。

また浅煎りのコーヒーは炭酸ガスの含有量が少ないため、豆によってはほとんど膨らみません。

「コーヒーが膨らむ=新鮮な証拠」は成り立ちますが、
「コーヒーが膨らまない=劣化している」とは言い切れません。

コーヒーが膨らまないからといって「淹れ方を失敗した…」とか「古いコーヒーに当たった…」となる前に、改めて

・蒸らしの際にコーヒーがお湯を保持してくれるか。
・炭酸ガスの細かい泡が発生しているか。

この2点を確認してください。

2つともクリアしていたら、それはあなたの淹れ方が悪いわけでもコーヒー豆が古いわけでもなく、そもそも炭酸ガスの含有量が少ない浅煎りのコーヒー豆という可能性が高いです。

とりわけスペシャルティコーヒーはそのフルーティな風味特性を存分に活かすために、あまり深くは焙煎しない傾向にあります。

最後にEncore! Coffee Roasteryで販売しているよく膨らむ深煎りの豆と、あまり膨らまない浅煎りの豆をご紹介します。

ぜひ、よく膨らむ深煎りのコーヒーもあまり膨らまない浅煎りのコーヒーもそれぞれ楽しんでください。

よく膨らむ深煎りのコーヒー豆

あまり膨らまない浅煎りのコーヒー豆

ハンドドリップだけじゃなくエスプレッソのことも知りたい!という方はこちらの記事をどうぞ。

エスプレッソってなに?普通のドリップコーヒーとの文化と抽出の違い(Encore! Coffee Roastery)

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