コーヒーの知識

苦手なコーヒーの酸味が好きになる!酸味の正体と良い酸味を持つコーヒーの選び方

2024.06.14

こんにちは。Encore! Coffee Roasteryの杉山です。
今日は「コーヒーの酸味」のお話。

みなさんはコーヒーの酸味と聞いて、どんなイメージを持たれますか?

「酸っぱい」「フルーティ」「ずっと口に残る嫌な感じ」?

もしかすると多くの方が「コーヒーの酸味」についてネガティブなイメージを持っているかもしれません。

コーヒーの話でしばしば誤解されがちなコーヒーの酸味。その酸味の特徴はコーヒー、とりわけスペシャルティコーヒーの魅力の一つですが、酸味が苦手な方々にとっては、「いやいや、コーヒーに酸味なんて求めてないのよ…」となっているのかもしれません。

今回はそんな誤解されがちな「コーヒーの酸味」について。コーヒーの酸味を形成する成分や良い酸味と悪い酸味の違いから始まり、コーヒー豆の種類や焙煎の違いによる影響まで、酸味に対する一般的な誤解を解きほぐしながら、あなたのコーヒータイムをもっと豊かなものに変える内容をお届けします。このコラムを通じて、酸味が楽しめる新たなコーヒーライフの扉を開いてみましょう!

コーヒーの良い酸味と悪い酸味

まず、コーヒーの酸味には良い酸味と悪い酸味の2種類があります。悪い酸味は劣化由来の酸味と焙煎由来の酸味で、良い酸味はコーヒー豆の持つフルーティで良質な酸味です。

  • 良い酸味:コーヒー豆が持つフルーティで心地よい酸味
  • 悪い酸味:油分が劣化した酸味や適切な焙煎がされなかった酸味

劣化由来の酸味は、熟しすぎたリンゴや腐りかけのブドウの酸味に似ています。一日中口の中に残るような収斂味やエグ味を感じる酸味です。これは、保存状態が悪かったり、焙煎後のコーヒー豆が古くなってしまった場合に感じられる酸味です。こうした酸味は、不快なものであり、コーヒーの本来の味を損ないます。
コーヒーの酸味が苦手…という方はもしかしたらこちらの劣化由来の酸味を感じ取っている可能性もあります。僕ももちろんこの酸味は苦手です。

もう一つ焙煎に由来する悪い酸味というのは、アンダーディベロップメントと言われる、いわゆる「生焼け」状態のコーヒー豆です。

コーヒー豆を焙煎する過程で、豆内部まで十分な熱量が与えられず、風味の発達が未熟な場合を「生焼け」と表現します。これは特に浅煎りのコーヒーを焙煎する際に起きやすい現象です。ステーキのレアを想像してもらったら分かりやすいですが、表面は焼けているのに、中はほとんど色が変わらず水分が残った状態。コーヒー豆の場合、見た目ではほとんど分からないのですが、実際に飲んでみると酸っぱかったり、棘のある酸味や草っぽい風味があるので、すぐに分かると思います。

僕たちスペシャルティコーヒーを扱うロースターは、特に浅煎りのコーヒーを焙煎することが多いので、アンダーディベロップメントになりすぎないように、コーヒー豆ごとに細かく焙煎のプロファイルを調整しながら、最終的な酸味のバランスを心地よいものに整えていきます。

一方、良質な酸味は、熟したオレンジや新鮮なベリーのような爽やかでフルーティな酸味です。これは、コーヒー豆が持つ自然な風味であり、コーヒーの味わいを引き立てます。新鮮なコーヒー豆は、この良質な酸味をしっかりと感じることができます。

焙煎後の鮮度も非常に重要です。焙煎してから時間が経つと、コーヒー豆は酸化し、風味が劣化してしまいます。特に開封後の豆は空気に触れることで酸化が進みやすくなります。

そのため、たとえば当店では焙煎後1週間以内のコーヒー豆のみを販売し、新鮮なうちに飲んでいただくことを推奨しています。具体的には豆のままで浅煎りなら3週間から1ヶ月ほど、深煎りなら2週間程度が美味しく飲める期限です。

あくまでも買った日からではなく、焙煎された日からの期限です。

ご自宅での保存もできるだけ酸素に触れないよう、密閉容器に入れて冷暗所で保管することをおすすめします。
ぜひ、新鮮なコーヒーの良質な酸味を感じ取っていただき、その違いを実感してみてください。

良い酸味と悪い酸味の違いを知った上で、じゃあ良い酸味の正体ってなんなんだ?というところを紐解いていきましょう。

なぜコーヒーに酸味があるの?酸味成分の基礎知識

よくよく考えると不思議ですよね。コーヒーの実はもちろんフルーツなので酸味はありますが、コーヒー豆はコーヒーの実の種子の方。なんで植物のタネにオレンジやらベリーやらのフルーティな酸味を感じるのか。

もちろん酸味を感じる成分を後から足しているわけではなく、これらはもともとコーヒー豆が持っているもの。

具体的にはコーヒーの酸味は、豆に含まれる有機酸に由来します。クエン酸やリンゴ酸など、多様な酸味成分が、コーヒーの風味と複雑性を生み出す基礎となっています。コーヒー豆の原産地、品種、収穫後の処理方法の違いによって、そのコーヒー豆の持つ酸味特性が決定します。

そして僕たちロースターが焙煎することにより、コーヒー豆の持つ酸味成分が形成されたり、消失したりを繰り返し、酸味の強弱や質感が作られ、それぞれ異なる味わいを楽しむことができます。この酸味は味覚を刺激し、コーヒーの爽やかさやフルーティさを際立たせてくれます。酸味を楽しむこともコーヒーを深く味わう上で重要な要素となります。

コーヒーの酸味の正体とは?

コーヒー豆は焙煎が浅いほど酸味は際立ち、香り豊かでフルーティな味わいを楽しめます。なので酸味を抑えたい場合は深煎りのコーヒーを選ぶ必要があります。酸味成分はフルーティで爽やかな清涼感をもたらし、全体の味のバランスを左右する重要な役割を担っています。

コーヒーの酸味を形成する代表的な化学成分を以下の表にまとめました。それぞれの成分の特徴と、どのような酸味をもたらすかも記載しています。

化学成分特徴酸味の特徴
クエン酸 (Citric Acid)果物に多く含まれる、爽やかでフルーティな酸味を提供オレンジやレモンのような爽やかな酸味
クロロゲン酸 (Chlorogenic Acids)コーヒーの主な酸味成分で、抗酸化作用も持つ明るくシャープな酸味
リンゴ酸 (Malic Acid)りんごや梨に含まれる、心地よい酸味を提供りんごのような清涼感のある酸味
酒石酸 (Tartaric Acid)ブドウに多く含まれ、収斂味のある酸味を与えるワインのような複雑で重層的な酸味
酢酸 (Acetic Acid)発酵によって生成される、適度な量であればバランスの良い酸味を提供過剰になると酢のような酸味が強調される
乳酸 (Lactic Acid)発酵過程で生成される、マイルドでクリーミーな酸味を提供ヨーグルトやバターのような滑らかな酸味
コーヒーの酸味を形成する代表的な化学成分

ちなみにコーヒーの成分で有名なクロロゲン酸は焙煎の加熱による加水分解で、キナ酸とカフェ酸に分かれて、苦味の方の物質に変わっていきます。酸が名前についていてもすべてが酸味を形成するわけではなく、この複雑な構成がコーヒーをさらに味わい深いものにしてくれます。

さらに他の酸味成分も詳しく知りたい方は、百珈苑のこちらのページをご覧ください。
コーヒーの酸味物質(百珈苑)
百珈苑は「コーヒーの科学」の著者で知られる旦部 幸博さんの作ったホームページで、コーヒーの科学的な情報が網羅されています。

これらの成分が組み合わさることで、コーヒーの独特な酸味のプロファイルが形成されます。焙煎度合いやコーヒー豆の産地によってもこれらの成分の比率が変わるため、さまざまな酸味の特徴を楽しむことができます。

何が何だか分かりませんよね。とにかく分かりやすく言うと、

  • コーヒー豆はもともとフルーティな酸味を生み出す成分を持っている
  • その成分のバランスは産地や品種、精製方法によって異なる
  • 焙煎によって最終的な酸味の質感や強弱が決定する

ということです。

ちなみにコーヒーを飲む時に感じるコーヒーの酸味の3大フルーツ感は、シトリック(柑橘系)、マリック(リンゴの酸)、タータリック(ぶどうの酸)と言われています。もちろん他にも色んなフルーツの酸味を感じることはありますが、この3つを意識するだけでも、コーヒーを飲んだ時に、ああ、このコーヒーは柑橘系だな、とか青リンゴを感じるな、とかちょっと通っぽくなれます。

豆の種類と酸味の関係

コーヒー豆の品種によって酸味の強さが異なります。例えば、アラビカ種は一般的に繊細でフルーティな酸味を持っていますが、一方、ロブスタ種は酸味が控えめで、ワイルドな味わいが特徴です。

また、同じアラビカ種でも生産地により酸味の特性におおまかな違いが見られます。例えば、アフリカ産コーヒー豆は明るめの酸味だったり。アジア産やブラジル産はもう少しマイルドめだったり。

焙煎度合いが酸味に及ぼす影響

コーヒー豆の焙煎度合いは、酸味に大きな影響を及ぼします。浅い焙煎では、コーヒーの酸味が保たれ、明るくフルーティーな味わいになります。もう少し深く焙煎して、中煎りでは酸味がややマイルドになり、バランスの取れた風味が特徴です。さらに、深煎りになると、酸味は大幅に低減され、苦味が前面に出る傾向にあります。酸味が苦手な方は、焙煎度合いの深いコーヒー豆を選ぶことで、酸味を抑えた味わいを楽しむことが可能です。焙煎度の違いに注目して酸味を調整し、好みに合わせたコーヒーを見つけましょう。

コーヒーの酸味を楽しむためのアプローチ

コーヒーの酸味が苦手という方も、良質な酸味を繰り返し体験することで、味覚が適応していき、酸味を楽しめるようになります。良質な酸味は、フルーツのような爽やかさや複雑な風味をコーヒーにもたらしてくれます。

それを楽しむには、まずは親しみやすい柑橘系の風味を持った銘柄の中から、中煎りから中深煎りあたりの酸味が比較的弱めのコーヒー豆を選んで、徐々に酸味が多いコーヒーにチャレンジするのも一つの手です。

コーヒーの酸味を楽しめるおすすめ入門豆

親しみやすい柑橘系の風味を持ち、かつ中煎りから中深煎りのコーヒー豆なら、こちらのグァテマラ ウエウエテナンゴをまずは試してほしいです。

こちらのグァテマラ ウエウエテナンゴはダークチョコレートのようなコクのある甘い香りに、完熟したオレンジのような爽やかな余韻がある銘柄です。冷めてくるとより果汁感が増して、甘味と酸味のバランスが調和していきます。

良質な酸味を見分ける方法

良質な酸味を識別するには、風味のバランスを見てみましょう。

  • フルーティさや清涼感が感じられるか
  • コーヒーの酸味が口の中でクリーンな印象を与えてくれるか
  • 突出した酸味だけでなく味わいの複雑さが感じられるか

これらの要素を満たしていれば、質の高い酸味と言えます。

酸味に対する味覚の適応とは?

味覚の適応とは、最初は受け入れがたいコーヒーの酸味に対して、時間と共に味覚が変化し、徐々に楽しむことができるようになる過程のことです。この適応過程で、新しい味覚体験に対する心理的な壁を乗り越え、認識し、評価する能力を育むことにつながります。初めての酸味は衝撃的かもしれませんが、少しずつ良質な酸味のあるコーヒーを味わう回数を増やすことで、果実由来の酸味やさわやかな後味の良さを感じられるようになります。

例えば、初めて飲んだビールは苦味しか感じなかったけど、今はフルーティさやホップの清涼感、その奥にある甘味を感じられるようになったりするのも味覚が適応したからこそです。

やはり酸味や苦味は、甘味や旨味と違い、ある程度の繰り返しの体験が必要だと感じています。(もともと甘味を受け入れ酸味や苦味を拒絶するのは、腐敗や毒を感知して排除するための自然なメカニズムなので)

ただ、このプロセスを経ることで、コーヒーの楽しみ方は大きく広がり、ゆくゆくは酸味を特色とするコーヒー豆も好んで選べるようにもなります。

いきなり酸味の個性が強いコーヒー豆を選んで、酸味に対して苦手意識を持ってしまうともったいないので、まずは定番のコーヒー豆から少しずつ慣らしていきましょう。
何よりもコーヒーの味わいそのものを楽しむ!これが一番大切です。

まとめ:酸味と上手に付き合うコーヒーの世界

コーヒーの酸味に抵抗がある方でも、味覚の適応を通じてその風味を楽しむことは可能です。元々、コーヒーの酸味は豆の種類や焙煎度合い、淹れ方によって変わります。最初は酸味が少ない豆を選んだり、フレンチプレスなどの比較的酸味がまろやかになる抽出方法を試してみるのも良いでしょう。

酸味への適応は徐々に、自分のペースで進めていけばOKです。少しずつ酸味に慣れながら、コーヒー楽しみ方の幅を広げましょう。良質な酸味を繰り返し体験することで、コーヒーの多彩な世界が広がります。

酸味だけじゃなくコーヒーの苦味についてもコラムを書いています。
コーヒーの苦味とは?苦味を生む成分と苦味を抑える方法

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